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仙台高等裁判所 昭和40年(ネ)72号 判決 1966年6月29日

控訴人 小野芳太郎

被控訴人 安田正吉

被控訴人 安田正毅

主文

原判決を取消す。

被控訴人らは各自控訴人に対し、金四五万円及びこれに対する昭和三六年五月二一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人その余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。

事実

<全部省略>

理由

まず控訴人の被控訴人安田正吉に対する請求について判断する。<省略>

結果を総合すれば、被控訴人安田正吉は、控訴人に対し、早坂藤蔵、早坂カネ子両名と共同振出の、額面金七〇万円、振出日昭和三五年五月二五日、支払期日同年六月二五日、振出地新庄市、支払地新庄市金沢一〇〇七、支払場所控訴人宅、受取人控訴人なる約束手形(以下本件手形と略称する)による債務を負担していたところ、昭和三六年五月二日、控訴人との間で右債務を金四五万円に減額し、同月から昭和三七年一二月まで毎月二〇日限り金二万二五〇〇円宛返済すること、もし右の分割払を一回でも怠ったときは、期限の利益を失う旨の準消費貸借契約を結んだことを窺いうるごとくであるが、右事実のうち、本件約束手形の振出の点については、成立に争いのない乙第三、第一〇号証、原審における被控訴本人安田正吉尋問の結果(第二回)によれば、本件手形中被控訴人安田正吉名義の部分は、同人が作成したものではなく、早坂藤蔵が同被控訴人の実印を勝手に使用して作成したものであり、従って乙第一四号証中被控訴人安田正吉名義の部分は真正に成立したものではないことが明らかである。

しかし、<省略>早坂藤蔵は被控訴人安田正吉の親族であって、住所も近く、早坂が昭和三四年から昭和三五年頃にかけて新庄信用金庫より金融を受けた際、同金庫宛に振出した約束手形に被控訴人安田正吉が保証し、この手形の書換に当っては同被控訴人は、その度毎に実印を早坂藤蔵に託し、保証契約締結乃至手形の振出につき代理権を与えていたものであること、早坂藤蔵が本件手形の被控訴人安田正吉名義の部分を偽造するにあたっても、前記信用金庫に対する手形の書換のために被控訴人安田正吉より借受けた同人の実印を使用したものであること、一方において控訴人は本件手形以前においても二、三回、早坂に対し、被控訴人安田正吉の保証によって、いわゆる手形貸付の方法で金融をしたことがあること、本件手形の振出を受ける当時、控訴人は、被控訴人安田正吉が早坂藤蔵の新庄信用金庫に対する借金の保証をしていることを知っていたこと、本件手形の振出にあたり、控訴人は早坂藤蔵に対し、被控訴人安田正吉名下の印影が実印によるものであることを確かめたものであることをいずれも認めることができる。

してみれば、以上の事実に基けば、早坂藤蔵の本件手形の被控訴人安田正吉名義の部分の作成行為は、早坂藤蔵が被控訴人安田正吉から与えられた新庄信用金庫に対する手形振出等の代理権の範囲を越えてしたものであり、かつ、控訴人には、右早坂に本件手形振出の権限があると信ずるにつき正当な理由があったものと認められる。よって被控訴人安田正吉は、控訴人に対して、本件手形につき、表見代理に基く責任を有するものといわなければならないので、結局右手形債権を前提とする前記準消費貸借契約もまた有効というべきである。

次に控訴人の被控訴人安田正毅に対する請求について判断する。

前記認定事実及び成立に争いのない甲第一号証に基けば、被控訴人安田正毅は、昭和三六年五月二日、被控訴人安田正吉の控訴人に対する前記準消費貸借契約による債務を保証したことを認めることができる。

尤も被控訴代理人は、甲第一号証(準消費貸借並に保証契約書)の成立を認めておき乍ら、右保証契約は被控訴人安田正吉が、被控訴人安田正毅の氏名を冒用してしたものである旨主張し、原審における被控訴人両名の各本人尋問の結果(但し安田正吉の分は第一回)中にもこれにそう供述部分があるけれども、これらは当審における控訴本人尋問の結果に照し、たやすく措信しがたく、いまだもって別記認定を覆すには足りない。

してみれば、被控訴人らは、いずれも控訴人に対して本件準消費貸借契約に基く債務を負担するものであるところ、被控訴人らが右準消費貸借に基く分割弁済を一回もしなかったことは弁済の全趣旨に徴し明らかであるから、被控訴人らは期限の利益を失ったこともまた明らかである。

よって被控訴人らに対し、各金四五万円及びこれに対する弁済期の翌日である昭和三六年五月二一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において控訴人の本訴請求は正当であるから、この限度においてこれを認容すべきところ、原判決はこれを棄却しているので、これが取消を求める本件控訴は理由がある。

<以下省略>。

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